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1 薬物について規定がある法律 |
規制が必要な薬物は、それぞれ大麻取締法、覚せい剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法、あへん法などの法律で規制されています。それぞれの法には禁止行為が定めてあり、罰則規定が設けてありますが、これらの4法以外にも、関税法、薬事法、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(麻薬特例法)などの法律にも薬物についての規定があります。 また、覚せい剤取締法第41条第2項(営利目的輸入など)や麻薬及び向精神薬取締法第64条第2項(営利目的輸入など)、麻薬特例法第5条(業として行う不法輸入など)の罪の場合は、裁判員裁判の対象となります。 これらの薬物について規定がある法律の違反行為に該当し、罪の構成要件や故意による行為など、罪に問うためのいろいろな要件を満たせば、起訴され、罪に問われ、罰を受けることになります。 |
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2 薬物関連法一覧 |
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3 法制定の目的 |
規制薬物と言えども薬であるため、その薬物が必要と思われる患者に対しては、医師の処方により、医療用として供されている場合が多くある。薬物濫用による保健衛生上の危害防止などのために、それぞれの薬物に対する法に、どのような規制をするかという事を法制定の目的(趣旨)として定めてある。 覚せい剤取締法(昭和26年6月30日法律第252号) 覚せい剤及び覚せい剤原料の輸入、輸出、所持、製造、譲渡、譲受、使用に関して必要な取締り
麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年3月17日法律第14号) 麻薬及び向精神薬の輸入、輸出、製造、製剤、譲渡し等について必要な取締り
あへん法(昭和29年4月22日法律第71号) けしの栽培並びにあへん及びけしがらの譲渡、譲受、所持等について必要な取締り
(通称)麻薬特例法 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成3年10月5日法律第94号) 薬物犯罪による薬物犯罪収益等をはく奪すること等、規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図ること
大麻取締法(昭和23年7月10日法律第124号) 大麻取締法では、大麻成分(カンナビノイド)を利用した合法大麻が存在するため、法で薬物(カンナビノイド)自体を規制するための文言を定めることが出来ない。よって、大麻取締法には、法を制定した目的(趣旨)を記した条文は存在しない。
大麻取締法の特殊な事情 覚せい剤取締法では、覚せい剤の輸出入、所持、製造、譲り受け、譲り渡し、使用と認められた業者以外は全面禁止になっているが、大麻取締法では、取扱者以外での使用は、研究のための使用禁止に限定してある。大麻取締法では、全面的に使用禁止になっていないが、一般使用を禁止できない事情がある。 |
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4 薬物犯罪での検挙人数 |
覚せい剤取締法違反の検挙人員は、昭和29年に5万人台を数え最初のピークを迎えたが、その後は急激に減少した。しかし、昭和45年以降再び増加に転じ、昭和59年には2万4,372人となり、2番目のピークを迎え、その後、再び減少傾向に転じた。平成元年に2万人を割った後は、平成6年まで横ばいで推移していたが、平成7年以降再び増加傾向に転じ、平成9年には2万人近くに達した。最近では、平成13年(2001年)以降、おおむね減少傾向にある(法務省「平成21年版犯罪白書」)。
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5 主な国の薬物関連の罪での最高刑 |
オーストラリア、イギリス、フランスは死刑制度廃止国のため、それぞれ終身刑、無期刑が刑罰の最高刑。オーストラリアの終身刑は仮釈放が無い絶対的終身刑。イギリス、フランスの無期刑は仮釈放がある相対的終身刑。アメリカは州によって規定が違うため、同じ終身刑でも絶対的終身刑と相対的終身刑の両方ある。どの国も、その国の法によって公平に裁くため、外国人を特別扱いしない。 イスラム圏の場合 コーランで麻薬の使用が厳禁されているイスラム圏では、麻薬の所持や売買などは厳罰に処すため、最高刑を死刑にしてある国が多い。サウジアラビアはイスラム圏でも特に麻薬犯罪に厳しく、麻薬使用で終身刑、運び屋など麻薬売買に従事した者は死刑(斬首刑又は絞首刑)に。 シンガポールの場合 入国審査時に記入提出する書類に、Mandatory death penalty for Drug trafficking(麻薬の密輸売買をした者は、必然的に死刑に処す)の警告文がある。ヘロイン15g以上、モルヒネ30g以上、覚せい剤250g以上などの所持・密売・密輸で死刑宣告され、恩赦が無く必ず処刑される(絞首刑)。 シンガポールでの麻薬犯罪に関する注意喚起(在シンガポール日本国大使館) 中国の場合 中国刑法では麻薬50g以上の密輸に対して「懲役15年以上、無期懲役、または死刑に処する」と規定されているため、50g以上であれば死刑の可能性があるが、覚せい剤では概ね1kg以上で死刑(銃殺刑又は薬物注射)が適用されている。薬物の影響力は個々に違うため、ヘロイン、モルヒネ、コカインなど、他の麻薬については、シンガポールなど他の国と同様に別の基準があるものと思われる。死刑の執行については、中国最高人民法院(日本の最高裁に相当)の許可が必要。 仮にシンガポールの基準例を中国に当てはめると、覚せい剤が1kgですから、4倍にして、ヘロイン60g、モルヒネ120gになります。ヘロインは60gで50gを超えていますから、ヘロインの場合は、50gを超えたら死刑の可能性が高くなるような気がします。 日本の場合 日本では、業とした場合や、営利目的の輸入、売買などの場合に無期懲役の規定はあるが、実際の裁判では、概ね10年以下の懲役刑になっている。麻薬犯罪については、日本から見れば諸外国の刑罰が重いように感じられるが、逆に、全世界から見れば、日本の刑罰が軽い部類にあると言える。 |
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6 麻薬密輸罪で邦人に死刑判決、死刑執行 |
2003年7月、中国当局は、覚せい剤約1.5kg、約1.25kgを所持していた容疑者を空港で相次いで現行犯で拘束。翌2004年6月、広東省のホテルで覚醒剤約3.1kgを所持していた容疑者(暴力団組員)を拘束。その後、相次いで日本人を含む日中両国の共犯者十数人を拘束。裁判では、日本人3人と中国人2人の計5人に死刑判決が確定した。2010年4月9日、死刑囚の刑を執行。 2006年9月、中国当局は、覚せい剤約1.5kg、約1kgを所持していた容疑者2人を空港で現行犯で拘束。裁判では、約1.5kg所持の被告に死刑、約1kg所持の被告に懲役15年の判決が確定。2010年4月6日、死刑囚の刑を執行。
2010年4月1日に死刑許可が下りながら執行されていない中国人が2人いますが、中国では、自国民についての刑の執行は素早いです。現に許可が下りた8人の内6人は、許可が下りた日に刑の執行をしています。許可が出ているのに執行しないのは不思議です。 ただ、武田死刑囚らの共犯にも2人の中国人がいます。日本では慣習で共犯関係の死刑は同日執行にしていますが、もしかすると、中国でも共犯関係は同日執行になっていて、4月9日に共犯の中国人2人の死刑を執行したのかもしれません(情報が少なく推測の域を超えませんが・・・)。 これらは、2003年、2004年、2006年に拘束(逮捕)された事件についてです。 今回の執行で、麻薬密輸罪で死刑が確定していた邦人全員の執行が済んだのですが・・・ 覚せい剤取締法違反での検挙人数が年間1万人を超えている現状を考えれば、2007年以降にも、日本人が中国へ渡航し、日本へ覚せい剤を輸出しようとして逮捕、起訴された事例はあるだろうと容易に推測できます。 麻薬・覚せい剤は、安く仕入れて高く売れるので、金儲けに目がくらんだ人なら、少しでも多くの覚せい剤を仕入れようとします。中には、1kg以上所持で逮捕、起訴された人も居るでしょうから・・・ 今後も、死刑判決が下り、刑を執行される事例が出てくると思いますね。 |
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7 覚せい剤所持で中国当局が70歳稲沢市議を拘束(時系列) |
2013年10月31日、中国・広東省広州市の白雲国際空港で3.3キロの覚せい剤所持容疑で70歳稲沢市議が中国当局に身柄を拘束された。 2014年7月28日、広東省広州市の検察当局は、同市の空港で覚せい剤を所持していたとして逮捕された愛知県稲沢市議の70歳容疑者を麻薬密輸罪で起訴した。 稲沢市議会 | 桜木琢磨議員
稲沢市議「潔白を証明」 接見で心境語る (中日新聞 2014年8月5日) 公判関係 広州市中級人民法院(地裁に相当)
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8 覚せい剤所持で中国当局に市議が拘束された件について |
日本では薬物犯罪(覚せい剤使用)での検挙数が多すぎて、余程大量であるとか、少量でも芸能人や有名人でないと逮捕などの記事になりませんし、判決例にしても、無罪判決の時に記事になりやすいので、実情が分かりにくいのですが、密輸(輸出入)については裁判員裁判対象の罪になっています。 国際空港は日本国内にも数多くありますが、国際線の発着本数が圧倒的に多いのが新東京国際空港の成田空港です。その成田空港で摘発された分については、千葉地裁で裁判員裁判として審理されます。 覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の罪での裁判員裁判の判決例は、無罪にならない限りメディアが配信する記事にはなりにくいので、本来なら殆ど分からないのですが、千葉県在住の方から千葉地裁での判決例の情報を提供して頂いている関係で当該ページでは数多くの判決例を挙げています。 千葉地裁は、麻薬裁判所と揶揄されるくらい覚せい剤密輸での裁判の件数が多いので、量刑例を知る上で非常に助かっています。 覚せい剤取締法、麻薬特例法違反などの罪での量刑例 殺人事件や性犯罪の判決例とは違い、麻薬・覚せい剤や大麻などの薬物犯罪の量刑例のページでは、ページ作成当初から「職業欄」を設けていたのですが、裁判員裁判対象の罪が量刑例に加わるようになってからは外国籍で職業が分からない例も多くなったため、せめて被告の国籍だけでも入れておこうと、国籍表記をするようになりました。 本件で気になったのが・・・ 関連記事の中に出てくる「ナイジェリア」という文字です。 現在、メキシコでは国内が麻薬戦争ですごい状況になっているくらいですから、日本で摘発された被告にメキシコ国籍が多いのは分かるのですが、メキシコ以外に意外に多く見たのがナイジェリア国籍です。 以下は、9月6日に関空で摘発され、27日に覚せい剤取締法違反などの罪で起訴された事例の毎日新聞の記事です。
本件は、中国・広東省広州市の白雲国際空港で摘発されていますが、予定通りであれば、上海浦東国際空港経由で中部国際空港に着いています。 成田は駄目、9月に関空でも失敗、なら今度は中部でと、何とか日本に覚せい剤を入れようとして、麻薬組織が政治家の市議を運び屋に仕立てあげたような感じを受けます。 国際空港の税関には優秀な麻薬犬が常駐していますから中部であっても見つけていたと思いますが、多くの覚せい剤が世間に出回っている以上、万が一くぐり抜け、出回っていた可能性もありますから、大量の覚せい剤が日本に入る前(中国を出る前)に、未然に中国当局に押さえてもらえたことはありがたく思います。 ちなみに、記事の中に「スーツケースは仕事仲間から預かった」とありますが、日本の場合、犯罪行為が故意であることを検察が立証しなければなりません。「中身が覚せい剤との認識があった」ことが必要になるため、知らなかったことの言い訳として良く使われる例ですし、無罪判決が下りた場合に記事によく出る文言でもありますが、日本の裁判でも無罪になるのは、ごく一部の例です。認識が無かったかどうかを判断するのは被告の言葉だけではなく、いろいろな側面から見て判断しています。結果、大部分が有罪の実刑判決になっているのが実情です。 中国は日本と違い薬物犯罪には厳しい国ですし、日本とは法も違います。過去に、知らずに運び屋をやらされた邦人に対して死刑判決が下り、執行もされています。中国では、違法薬物については、基本的に「知らなかった」は通用しない。現物が見つかったらアウトと思っていた方が無難です。 本件では押収された覚せい剤の量が約3キロと、中国で死刑となっている場合の量の目安の1キロを大きく超えているので死刑もあり得る事件です。仮に知らない間に運び屋に仕立て上げられていたとしても、拘束(逮捕)されてから、また、死刑判決を受けてから悔やんでもどうしようもありません。 言葉が通じない場所であっても、自分の身を守るのは自分でしかありません。本件は、死刑もあり得る事件で、且つ被疑者が市議(政治家)なのでメディアも今後も記事として取り上げてくれるでしょうから、これを機会に、日本では刑が軽い薬物犯罪が他国では厳しいという実情を知っていただければと思います。 |
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9 中国遼寧省大連市に於いて、麻薬密輸罪で死刑確定の邦人を死刑執行 |
2014年7月25日午前、覚醒剤を日本に密輸しようとした罪で死刑判決が確定していた50代の日本人男に死刑が執行された。2010年4月以来5人目。
中国で日本人男性の死刑執行 覚醒剤密輸の罪 - 朝日新聞(7月25日) 中国が日本人の死刑執行 岸田外相 覚醒剤密輸の50代男性 - 産経新聞(7月25日) |
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