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時効期間に関する改正法が2010年4月27日に国会で可決され、改正法が成立したのですが・・・ かなり大きな問題があります。 大きな問題ですので、今後発生するだろうことも含めて、簡単にですが、公訴時効について、一つのページにまとめることにしました。 |
公訴時効期間について |
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2010年4月27日に施行された刑事訴訟法での公訴時効期間は以下のようになります。
平成22年の改正法には、遡及事項の規定があるのですが・・・ 問題点がありますので、その遡及規定を無視して、これまでの公訴時効期間について並列で表に表しておきます。
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2010年の改正法で問題となる条文 |
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どこが問題になるのかを、平成22年の改正法、平成16年の改正法の当該部分の条文を並べて貼り付けます。 平成22年の改正法は以下になるのですが、赤字の部分が問題になります。
赤字部分に関連している条文は以下のようになります。
法律というのは、分かりやすく書くと、国と国民の約束事です。 平成16年の改正法では、
刑事法ではあり得ないことなのですが・・・^^;; 平成22年の法改正で「平成16年に規定したことは、嘘でした」としました。 どうして問題になるかを、今後書いていきます。 |
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日本国憲法で国民の権利を規定 |
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日本国憲法の第3章(第10条〜第40条)に、国民の権利及び義務に関する項目があるのですが、約3分の1に当たる第31条〜第40条が、刑事事件に関する条文です。
全文を読んでもらえば分かると思いますが、憲法では、被告人(容疑者)=国民にとって不利益とならないように規定しています。 |
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日本国憲法第39条 |
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何人も、実行の時に適法であつた行為については、刑事上の責任を問はれない。 刑事上の責任(罰)というのは、該当する罪の規定だけでなく、刑法第1編総則の規定や刑事訴訟法など、いろいろな法律に規定されていることから判断します。 この条文を分かりやすく書くと 何人も、実行時に規定されていた法律の範囲内でしか、刑事上の責任を問はれない。となります。 民事責任と刑事責任では法の厳格さに大きな違いがあり、実行時、刑事法に規定が無かったことを根拠に、罪に問うことは出来ないのですよね。 |
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時効は、犯罪行為が終った時から進行 |
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刑事訴訟法の公訴時効関係の条文で改正されたのは、今回も前回も第250条だけですが、法律というものは当該条文だけでなく、関連している部分の全ての条文で読むものです。 今回改正される前の公訴時効に関する部分を抜粋すると、以下のようになります。
第253条で「時効は、犯罪行為が終つた時から進行する」と謳い、第250条で「時効は、次に掲げる期間を経過することによつて完成する」と謳い、第250条第1号で「死刑に当たる罪については二十五年」と謳っています。 殺人罪は死刑に当たる罪ですから公訴時効期間は25年ですが、仮に殺人罪について関係する条文をまとめると・・・ 「時効は、犯罪行為が終つた時から進行し、二十五年を経過することによつて完成する」となり、平成16年12月8日に公布し、平成17年1月1日以降、国はこうします。と国民に約束しました。 また、この公訴時効期間の延長は、規定を重くしていますので、容疑者にとって不利な状況になります。 よって、附則に「この法律の施行前に犯した罪の公訴時効の期間については、第二条の規定による改正後の刑事訴訟法第二百五十条の規定にかかわらず、なお従前の例による」と謳い、改正前の公訴時効については、従前の通り「時効は、犯罪行為が終つた時から進行し、十五年を経過することによつて完成する」とも、国は国民に約束しました。 時効は、犯罪行為が終わった時から進行していますので、その事件には既に改正前の刑事訴訟法の規定が適用されています。 ですので、約束した通りに、2004年12月31日以前の事件については15年、2005年1月1日以降で2010年4月26日以前の事件については25年経過したら時効が完成します。 |
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オウム関連事件の容疑者も改正法適用対象に |
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今から15年以上前の1995年3月に起きた公証役場事務長拉致監禁致死事件や地下鉄サリン事件では、未だに逮捕されず、指名手配されている特別手配被疑者が3名います。
これらの事件には共犯者がいるため、事件後進行していた時効は刑事訴訟法第254条第2項の規定により、共犯の内の1人が起訴された時点で停止しました。 オウム関連事件では、多くの者が起訴されたために、当該事件で誰が一番初めに起訴されたのか分かりませんが、起訴された被告の中には、ほぼ全ての事件について起訴された松本智津夫死刑囚がいます。松本死刑囚は、1995年5月に逮捕され、その後、起訴されていますが、同死刑囚の初公判が同年10月に予定されていましたので、遅くとも1995年10月には特別手配被疑者の時効の進行は停止しています。 また、公証役場事務長拉致監禁致死事件や地下鉄サリン事件で起訴された被告の中には、現在上告中で判決未確定の被告が現時点でもいます。
共犯の刑が確定しないことには再度時効の進行を始めないため、15年以上前の事件ですが、殆どの期間を残した状態で時効の進行を停止したままになっています。上告中の被告は3名居ますが、最高裁の裁判の進行具合からすると、判決が確定するまでに少なくとも2年くらいはかかると思いますから、再度時効が進行しだすのは、まだ先になります。 これらの容疑者も、時効が完成していないので、今回の改正法の附則の規定に沿えば、当然の事ながら適用対象になりますが・・・ 法律として非常におもしろい(あり得ない)現象が起きています。 事件時の行為(罪)に対しての罰ですから、基本的に、事件当時の罪の規定が適用されますが、事件後に罪の規定が軽くなった場合には、軽い規定の方を適用します。
ここ最近の刑法関係の改正は重罰化です。改正前の方が軽くなっていますので、事件当時の罪の規定が適用されます。 まず、公証役場事務長拉致監禁致死事件について書いていきます。 当時の該当法は、以下のようになっていました。
現行法の法定刑では3年以上の有期懲役刑が、事件当時の逮捕監禁致死罪の法定刑は2年以上の有期懲役刑でした。 現行法と改正前では、下限が1年違うだけですが・・・ 他の部分の法改正もされ、時効期間を決める元になる最高刑についても、同時に法改正されています。
今回の改正法の附則には以下のように謳ってあります。
公証役場事務長拉致監禁致死事件は、時効が完成していませんので適用されることになりますが、逮捕監禁致死罪の場合を分かりやすく並べて書くと以下のようになります。 ちなみに、逮捕監禁致死罪だけなく、ガス漏出等致死、往来妨害致死、浄水汚染等致死、保護責任者遺棄致死、建造物等損壊致死などの罪は、全て傷害致死罪の規定に沿う様に条文がなっていますので、これらの罪の場合には同様な状態になります。
見ての通り、同じ罪に対して、同じ法の規定を当てはめても、時効期間が違ってきます。 あり得ないことですが・・・ 改正法施行前の事件に適用させようとするので、こういう現象が起きてしまいました。 事件日から時効がゴールに向かって進行していたら・・・ 後から出来た法によって、突然ゴールを延ばされた状態になっています。 ただし、事件当時にない規定ですから、事後法で適用すると謳っても、事件当時の規定が優先され、停止期間を除いて7年経過すれば時効は完成します。 事件当時の規定に沿って時効が完成していれば、仮に、改正法の規定を根拠に起訴されても、争点を改正法の憲法違反一本に絞れば済みます。裁判では免訴の判決が下されると思いますが、もし、免訴以外の判決が出たとしても、改正法の憲法違反という争点がありますから、最高裁大法廷まで一直線にいってしまいます。 次に、地下鉄サリン事件についてです。 地下鉄サリン事件は、サリン散布によって、死者12名、重軽傷者5000名以上の被害を出した事件ですから、問われる罪は、殺人、殺人未遂罪になります。
現行法は、死刑、無期、5年以上の懲役ですが、最高刑の死刑は変わりません。人を死亡させていて死刑に当たる罪ですので、今回の法改正では、時効が廃止されています。 時効制度というのは、時効の完成によって検察が起訴をできなくする制度です。起訴して罪に問う以前の免訴の規定ですし、時効が完成しているか、完成していないかは、罪に問うための最初の大きなハードルで重要な要件になります。 本件では、事件後時効が進行し、共犯起訴により時効が停止しています。 時効が進行し、停止し、共犯の刑確定後再度進行するために待っていたのに、突然、途中で時効そのものが無くなるのは、道理から言ってあり得ません。 仮に、改正法施行日に時効が完成していなかったとしても、時効そのものを無くすためには、時効が進行し始める事件日まで遡って法を適用するしかありません。 容疑者に不利になるように遡って適用することになる今回の改正法は、遡及処罰を禁止している憲法に違反している疑いが非常に強くあります。 これまでなら、法の整合性を官僚が事前に調査していましたから、こんな法が出来るなんてことはあり得なかったのですが・・・ なにしろ、法改正をした政府・民主党は、「政治主導・脱官僚」をスローガンにして、自分達の思うようにやっています。 厳格な刑事法、しかも、要となる刑法、刑事訴訟法は、これまで、何度も改正されてきた法ですし、規定を重くする場合は遡及できない法ですから、現行法では変更されている部分でも過去の規定が有効になっている法律です。 刑法、刑事訴訟法を改正する場合は、両方の法律全文を読みこみ、過去の改正法も全部読み、全ての整合性が取れるように、慎重の上に慎重を期して、改正法案を考えなければならないので、法案策定には相当の時間を要するのですが・・・ 充分な審議もせず拙速すぎるくらいのスピードで一部の条文だけ抜き出して改正したので、同じ罪で2種類の時効期間があるとか、違憲の強い疑いがある法が出来てしまいました。 「政治主導・脱官僚」なんて言っていますが、政治主導の結果がこの状態です。官僚抜きでは、明らかに法案作成能力が低いと言わざるを得ないですね。。。 |
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刑事上の責任を問う際に必要不可欠な5要件 |
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1 公訴時効が完成していないこと
2 違法性阻却事由がないこと
3 刑事責任能力があること
4 故意による行為であること
5 罪の構成要件を満たしていること 罪の構成要件を満たさないと犯罪不成立。 故意犯の刑事上の責任を問うためには、どうしてもこれらの5要件を満たさなければいけません。どれか一つでも満たさなければ、検察公訴権消滅、または、犯罪不成立になります。 刑事訴訟法第250条の規定は、検察の公訴権消滅に関する規定で、刑事上の責任を問うために必要かつ重要な5要件の内の一つです。 事後法によって、重くした規定を遡及して適用するのは、同時期の犯罪行為に対して法の下に同一条件で裁くという原則から逸脱しますし、時効の完成によって免訴になるのを遡って適用して時効期間を延長したり、時効そのものを廃止にして処罰対象にするのですから、遡及処罰そのものです。どう考えても違憲になりますね。 |
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法制定は立法府、法運用は行政府ですが・・・ |
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法制定は立法府、法運用は行政府ですが、実際に罪の有無や罰の軽重を決めるのは司法である裁判所です。しかも、裁判所と言えども、法律の範囲内でしか裁けません。 刑法、刑事訴訟法は、刑事法の要となる法律ですが、上位に憲法があります。どの法律についても言えることなのですが、憲法や他の法律と整合性のある法律でなければいけません。 立法府で可決すれば、法は作れますが・・・ あくまで憲法と整合性のある法律にしなければいけませんので、もし、その法の中の規定が憲法に違反していれば、裁判所は、その規定に対して違憲の判断を下します。 今回の法改正は対象になる罪が多いので、遅かれ早かれ遡及規定に該当する事件が出てくると思います。逮捕状請求時に裁判所が判断するのか、検察が起訴時に判断するのか、公判で免訴判決が出されるのか分かりませんが、いずれ憲法との整合性が判断されることになると思います。 |
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最高裁で違憲判決が出れば、当然の事ながら規定は無効に |
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既に無罪とされた行為に対して、刑事上の責任を問えば、憲法第39条の規定に触れます。 仮に法が施行されても、最高裁で違憲判決が出れば、違憲部分の規定は施行時に遡って無効になりますし、違憲となった条文を載せている法は、その法が違憲状態にあることを意味します。いつまでも法に載せておくことは出来ませんので、早急に、当該部分を削除するために再度国会を招集し、法改正をしなければいけません。 また、時効が完成した者は、本来なら起訴して罪に問うことも出来ない免訴の状態です。時効が完成し、起訴出来ない状態だったのにも関わらず、改正法を根拠に起訴すれば、違法に身柄を拘束、起訴して刑事責任に問うたことになりますし、逮捕、起訴されれば、メディアにも情報が流れ、無罪である容疑者(被告人)とされた人の名誉も棄損してしまいます。 規定が憲法違反になった場合は、違法な法を根拠に起訴したことになりますから、国には、刑事補償、国家賠償責任が発生し、国民による税金から補償金、賠償金を支払われることにもなります。 「犯罪者なのに、どうして支払わなければいけないの!?」と思われる方もみえると思いますが、警察での逮捕段階は「容疑者」ですし、検察が起訴したら「被告人」であって犯罪者ではありません。判決が確定するまでは推定無罪ですし、「疑わしきは被告人の利益に」が刑事裁判の原則です。あくまで、裁判で「罪が有る」と認定されて初めて有罪になり「罪を犯した者」の犯罪者になります。
ちなみに、国家賠償の場合、通常、国は過失を認めませんが、法の不遡及は刑事法の大原則のため事前に各所から違憲の可能性が高いとの指摘があったのにも関わらず、千葉法相が「新たに処罰規定を設けるのではなく、憲法違反には当たらない」と刑事法の仕組みを分かっていないとしか思えないような持論を展開し、閣議決定し、民主党の賛成多数で今回の法案を可決し、改正法を施行させたので政府・民主党及び立法府の過失は明らかです。 |
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