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事件概要 |
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1997年4月13日午前2時頃、三重県上野市(現伊賀市)のビジネスホテル「ホテルキャッスルイン上野」でフロント係の当時48歳の男性が刺殺され、事務所の金庫などから現金約159万円が奪われた。 現場には争った形跡があり、被害男性のものとは違う血痕があった。血痕の痕跡から、犯行後、犯人はホテル2階へ上がり、外へつながる非常階段から逃走した。捜査によって、三重県警は、犯人のものとみられる血の付いた靴を現場から南東700メートルのアパートの生け垣から発見した。 1997年当時の公訴時効期間は15年であったが、2010年4月、刑事訴訟法が改正され、殺人など法定の最高刑が死刑の罪で、人を死に至らしめた場合の公訴時効は撤廃された。改正法施行時に時効が完成していない事件についても改正法を適用することで本件の時効も無くなり、三重県警は捜査を継続した。 事件から約15年10ヶ月後の2013年2月1日、三重県警伊賀署は、強盗殺人容疑で、兵庫県小野市本町、工員、43歳男を逮捕。22日、津地検は、強盗殺人罪で元ホテル従業員の43歳工員を起訴した。 |
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※三重県伊賀市上野桑町周辺の地図 - Yahoo!ロコ |
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起訴状況 |
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※ 無期懲役仮釈放者の平均在所年数 |
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公訴時効について |
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2010年4月に刑事訴訟法が改正され、法施行時に時効未完成の事件については新法の規定を適用することになったのですが、これまでは、その規定を該当させ、起訴された事件がありませんでした。 改正法の規定は、当初から違憲の疑いがあったのですが、実際の裁判がなければ、司法の判断を出すことが出来ません。法施行から約2年10ヶ月経っていますが、本件が最初の例になります。 強盗殺人は法定刑に死刑と無期懲役の規定しかない悪質な罪なので、実際の量刑も殆どが無期懲役以上になっています。どの程度の証拠があるのか分かりませんが、被告は「自分がやった」と認めているようなので、強盗殺人罪の罪の構成要件や故意による行為などを満たすと思います。 強盗殺人罪での起訴ですから、通常であれば、無期懲役判決になりますが、違憲の疑いがある改正刑事訴訟法の規定を適用させているため、もし公訴時効が完成していると判断されれば免訴判決になります。 今の無期懲役は、判決が確定してから30年以上経過しないと最初の仮釈放審査の対象にはなりません。言い換えると最低でも30年以上服役する必要があります。 本件の被告は起訴時で43歳です。判決が確定するまで何年かかるか分かりませんが、仮に2年で確定したとしても45歳になります。それから最短の30年で75歳になっています。75歳と言えば、男性の平均寿命に限りなく近いので、無期懲役であれば、ほぼ獄死コースになります。それに対して免訴判決の場合は、起訴できない状態ですから、当然の事ながら服役する必要はありません。 被告が罪を犯しているのなら、被害者遺族のことを考えれば、その罰として無期懲役になればと思うのですが、あくまで法の範囲内でしか裁くことは出来ません。刑法も刑事訴訟法もそれらの法の最上位に位置する憲法も法律です。もし改正法の規定が憲法と整合性がなければ違憲になり、改正法でなく、事件当時の刑事訴訟法の規定を適用し公訴時効期間が15年となります。本件の起訴時は15年以上経過していますので公訴時効が完成したことになり、結果、免訴になってしまいます。 ここのところ事件のページを新たに作る場合は、基本的に、検察求刑が死刑の可能性が高い事件について裁判員裁判のコンテンツで、性犯罪が起訴事実に含まれた殺人事件について性犯罪のコンテンツで扱ってきました。本件はそのどちらにも該当しませんが、改正刑事訴訟法の規定が合憲なのか違憲になるのか以前から気になっていましたし、実際に該当する事件裁判で裁判所の判断が出ないことには法律もそのままなので、起訴され、裁判になるのが決まったこの段階でページを作りました。 本件は、無期懲役で獄死コースになるか、免訴で服役しないで済むかと、すごく極端な事例になると思いますが、強盗殺人罪は裁判員裁判対象の罪ですから、その判断を裁判員裁判ですることになります。ただし、争点が憲法解釈になる場合は、大阪此花パチンコ店放火殺人事件の時の様に、裁判官が判断することになると思います。 公訴時効については、同じ殺人事件コンテンツの別のページ「公訴時効について」にまとめてありますので、詳しくはそちらのページをどうぞ。 |
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公判関係 |
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第一審 津地裁(岩井隆義裁判長) 裁判員裁判 事件番号: |傍聴券交付情報:津地方裁判所 |
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2013年12月2日、弁護側は判決を不服として名古屋高裁に控訴 | |||||||||||||||||
控訴審 名古屋高裁(石山容示裁判長) 事件番号: |傍聴券交付情報:名古屋高等裁判所 |
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弁護側は判決を不服として上告期限までに最高裁に上告 | |||||||||||||||||
上告審 最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長) 2015年12月3日、最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長)は、「時効撤廃は憲法で禁止された違法性の評価や責任の重さをさかのぼって変更するものではなく、合憲だ」として、46歳被告の上告を棄却した。 |
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氏名 | 罪名 | 第一審 | 控訴審 | 上告審 | ||||
求刑 | 判決 | 裁判所・日付 | 判決 | 裁判所・日付 | 判決 | 裁判所・日付 | ||
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強盗殺人罪 | 求刑無期懲役 | 無期懲役 | 津地裁 2013/11/22 |
控訴棄却 | 名古屋高裁 2014/4/24 |
上告棄却 | 最高裁第1小法廷 2015/12/3 |
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