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問われる可能性がある罪 |
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逮捕容疑は、5日午後4時10分頃、パチンコ店南東側の出入り口から侵入、青いバケツに入ったガソリンを通路にまき、火を放って南西側の出入り口から逃走したこと。 容疑者は、パチンコ店の店内で、ガソリンを撒き、火を放ち、放火して、約400uの店内を全焼させていますので、現住建造物等放火の罪の「放火して、現に人がいる建造物を焼損した者」に当てはまります。 無差別に人を殺そうとして、パチンコ店の店内にガソリンを大量に撒き、火を放ち、4人の方を殺していますので殺人罪、また、19名の方に対しても、死に至らずとも重軽傷を負わせていますので殺人未遂罪に当てはまります。
よって、これらの現住建造物等放火、殺人、殺人未遂の罪に問われる可能性があります。 現住建造物等放火、殺人、殺人未遂罪は、どの罪も裁判員裁判の対象の罪になります。 |
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放火行為で殺人罪に問われる場合には・・・ |
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この事件では、問われるだろう罪が、現住建造物等放火、殺人、殺人未遂罪などで、どれも、裁判員裁判の対象となっている罪です。 しかも、どちらの罪の法定刑も、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役となっており、最高刑の死刑が規定されています。 本件でも、4人死亡、19人重軽傷と被害に遭われた方が多くみえます。 これだけの被害者が出ている場合には、刃物や拳銃を使っての犯行で、刑事責任能力がある場合には、死刑しかありえないのですが・・・ 現住建造物等放火の場合は、現住建造物等放火の罪の場合の量刑例にあるように、多人数の被害死者が出ていても、無期懲役になっている場合があります。 ただし、被害死者が4名、重軽傷者が19名という結果の重大性から、有期刑の選択はありえませんので、量刑には、無期若しくは死刑が選択されることになると思います。 そして、現住建造物等放火の罪と一緒に問われる殺人罪の故意(罪となる事実を認識し、かつ結果の発生を意図または認容していること)の程度が、確定的殺意なのか未必の殺意なのかで、死刑と無期の分かれ道になります。 故意だけでなく、他の要件も関係してきますが、4人被害死者が出ているので、確定的殺意の証明があれば、死刑の可能性が高くなり、未必の殺意に留まると、4人被害死者が出ていても無期懲役になる可能性が高くなります。 被告に対して死刑判決が下る事件数は、総事件数から見ると、ほんのわずかな数字なのですが、死刑の可能性がある事件は、事件概要などから分かります。たぶん本件は、一般人である裁判員の方々が、死刑も選択肢に入れた量刑判断をしなければならなくなると思います。 制度が施行されてから2ヶ月弱ですから裁判員裁判対象の事件数も多くないのですが、施行後これまでに起訴された事件で死刑もありうるような事件は無かったように思いますし、この事件以前には、それらしきニュースも聞きませんでしたので、本件が裁判員裁判制度で刑罰に死刑もありうる最初の事例になると思います。 現時点では、まだ起訴すらされていない段階ですが、死刑選択の可能性がありますので、参考までに、これまでどのような要件から量刑判断されてきたのかを、本件に当てはめて書いていきます。 |
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犯罪成立には、故意による行為と刑事責任能力があることの証明が必要 |
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罪に問うには、した行為が、故意による行為であることと、刑事責任能力があることが必要です。
容疑者は、放火という行為によって無差別殺人を企てたのですが、犯行に灯油とは比較にならないくらい揮発性、引火性を持ったガソリンを使っています。 ガソリンは、揮発性、引火性が高いので、当然の事ながら取扱には注意を要するのですが、容疑者は、国家資格の危険物取扱者の資格を持っているので、そういう点について熟知しています。 危険物であるのを熟知しているので、犯行に使うガソリンを運ぶために、専用の携行缶を犯行直前に購入していますし、自分の身にガソリンがかからないよう、また、パチンコ店内の床面に一気に流しやすいようにガソリンを携行缶からバケツに移し替え、両手を使ってバケツに入れたガソリンを通路に流しています。 故意の構成要素でもある「結果の発生を意図または認容」について、危険物取扱者でありながら、犯行にガソリンを使っていますので、ガソリンに引火させると、どういう結果を引き起こすかということを分かっていながら放火したことになります。 容疑者が取った行動は「バケツに入ったガソリンを通路にまき、火を点けた」という、時間にすると数秒というすごく短時間の行動なのですが、無差別に人を殺すために、わざと人が多いパチンコ店を選び、放火の被害が広がるようにバケツの中のガソリンを通路に流しています。 ガソリンが揮発性、引火性が高いので、相当量のガソリンを撒き、火を放てば、パチンコ店の店内は、一瞬で火の海になります。 今の衣服は、化学繊維を使っているのも多くあるのですが、化学繊維は火に非常に弱く、引火すると溶けて燃えてしまいます。 犯行当時になったであろう状況を想像すると、被害に遭われた方々が気の毒でならないのですが・・・ 容疑者が、ガソリンを撒き、火を放った瞬間に、被害に遭われ焼死された方々の周囲は一面火の海になり、被害者自身が着ていた衣服にも引火し、火だるまの状態になったと思います。ですので、逃げ遅れではなく、逃げる暇すら無かった状況だったと思います。 危険物取扱者である容疑者が、無差別殺人の殺害方法にガソリンを使い、人が多いパチンコ店での放火行為を選択したことで、犯行前からこういう状況を予見して犯行に及んでいますので、現住建造物等放火行為の故意だけでなく、殺人、殺人未遂罪も、確定的に殺意があっての犯行だったことが分かります。 そして、犯行に使うガソリンを運ぶために、専用の携行缶を犯行直前に購入するなど、事前に周到に準備していますし、ガソリンを携行缶からバケツに移し替えるなどして、放火の被害が広がるように工夫し冷静に犯行に及んでいます。 また、犯行後現場から逃走していますが、本件の刑事責任を取るために自分から出頭するなど、是非善悪の判断が出来ていますので、刑事責任能力については、精神鑑定をするまでもなく、完全責任能力があると判断できます。ただし、刑罰に死刑もありうる事例ですので、万全を期すために精神鑑定をしておくことは必要だと思います。 |
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本件の犯罪行為を死刑適用基準と照らし合わせてみると・・・ |
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まずは、有罪か無罪の判断ですが、問われる罪の構成要件を満たし、故意による犯行の証明が出来、刑事責任能力があると判断されれば、その行為の罪が有るとなります。 有罪となれば、今度は、どの程度の罰の罪になるのか、量刑判断に移ります。 本件は、現住建造物等放火と殺人という、法定刑に死刑の規定がある重い罪です。 有期刑は、被害死者の多さなどから、ありえませんので、無期か死刑のどちらかになると思いますが、死刑を選択する際には、死刑適用基準の要件(死刑を科す際に考慮すべき要件についての最高裁判例)を満たす必要もあります。 ですので、死刑に関してのページの死刑適用基準で紹介した以下の12項目の要件をこの事件の場合に当てはめて考えてみます。
このように、犯行後逃走しても、責任を取るために自分から出頭するなどして、更生の可能性は見えますが、「仕事も金もなく、人生に嫌気がさした。死刑になってもかまわないと思ってやった」という自分勝手な無差別殺傷事件であり、死者4名、重軽傷者19名という結果の重大性、数日前から被害者に逃げる間も与えないくらい揮発性引火性が高いガソリンを大量に使用して放火する計画を立てその通りに実行した強固な殺人計画性、何の縁もない人を生きたまま焼き殺すという殺害方法の残虐性などから、罪責は非常に重く、死刑が止むを得ない事例と言えます。 |
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本件の犯罪行為での罪の加重減軽を考えてみると・・・ |
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現住建造物等放火罪も殺人罪も、条文には、死刑が謳ってありますが、被害死者が何人以上の場合に死刑という但し書きがあるわけではありません。あくまで、犯した罪に対して総合的に判断して量刑を決めますので、その人間に対して死刑やむなしと判断したら、被害死者数に関係なく死刑はありえます。 どのようにして罪の重さを決めていくのかを、今回の事例について刑法の条文を紹介しながら簡単に書いていきます。 死刑適用基準に照らし合わせたら、死刑が止むを得ない事例となりましたので、スタートを死刑で考えます。
まずは、一 再犯加重ですが、殺人前科は無いと思いますから、加重なしで死刑。 次に、二 法律上の減軽ですが、これは、刑事責任能力についてです。
ガソリンによる放火で事前にいろいろな道具を周到に準備していますから、心神喪失状態や心神耗弱状態での犯行とするには到底無理があり、完全責任能力があると考えられますから、法律上の減軽なしで死刑。 そして、三 併合罪の加重について
容疑者がした行為は放火行為だけですが、無差別殺傷(殺人、殺人未遂行為)のために放火行為を利用していますし、放火の結果、現に人がいる建造物を焼損し、死者4名、重軽傷者19名の被害者を出しています。 一つの行為で2つ以上の罪に触れているため、第54条の規定により、最も重い刑になるように選択しなければいけませんが、選択しようにも、殺人罪も現住建造物等放火罪も法定刑は死刑又は無期懲役、5年以上の懲役と規定されてあり、最高刑の死刑が入っています。 第54条の規定では判断できませんので、第10条第3項の規定により、4名に対しての殺人罪、19名に対しての殺人未遂罪(死刑又は無期懲役、5年以上の懲役)と現住建造物等放火罪(死刑又は無期懲役、5年以上の懲役)のどちらが重いのかを判断して、重い方の刑で考えます。 仮に、4名に対しての殺人罪、19名に対しての殺人未遂罪が死刑、現住建造物等放火の罪を無期懲役とすると、死刑と無期は併科できませんので、重い刑の死刑のみになります。 三 併合罪の加重については、第46条の併科の制限により死刑に併合できる刑が無いので、加重なしで死刑。 最後に、四 酌量減軽についてですが、現状では、情状を酌量すべき部分が見当たりません。強いて言えば、自分から警察に出頭したことですが・・・
条文を見て分かるように、「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる」となっています。容疑者の映像が防犯カメラに映っていましたし、事件は衆人環視の中で起きています。捜査を開始していましたので、容疑者を特定するのも時間の問題でした。 自首扱いになるのか疑問でしたので、出頭という表現を使っていますが、仮に、その行為を自首扱いにしたとしても、あくまで「刑を減軽することができる」と裁判官の裁量です。自ら出頭という行動をもって死刑を無期懲役まで減軽する材料とするには無理がありますので死刑は変わらずです。 容疑者がした行為の罪に対する罰を、判例(死刑適用基準)や法の加重減軽の手順に沿って考えてみても、最終的な量刑は死刑になりました。 放火による殺人行為は、確定的な殺意を立証するのが難しいので、被害死者数が多くても無期懲役刑があるのですが、本件の容疑者は、ガソリンの危険性を熟知している危険物取扱者(国家資格)の資格保持者です。 過失でも業務上過失致死傷罪に問われる危険物取扱者の資格保持者が、ガソリンの揮発性、引火性の高さを熟知しているにも関わらず、明らかにガソリンを撒き火を放った(故意による)行為が防犯カメラの映像に残っています。 危険物取扱者資格保持と防犯カメラの映像は、客観的に判断できる証拠となりますので、確定的殺意の立証も容易になります。 本件は、容疑者が確定的殺意を持ち、人が多いパチンコ店の店内に放火し、死者4名、重軽傷者19名という重大な結果を引き起こしていますので、量刑に死刑が止むを得ないと言わざるを得ない事例だと思います。 |
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起訴状況 |
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※ 求刑死刑に対しての判決例|死刑がやむを得ない場合|死刑執行方法 |
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統合失調症罹患者と責任能力 |
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※2002年より「統合失調症」に改められているため、判例の「精神分裂病」部分を「統合失調症」と表記。 |
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時系列 |
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公判関係 |
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第一審 大阪地裁(和田真裁判長) 裁判員裁判 事件番号:平成21年(わ)6154号|傍聴券交付情報:大阪地方裁判所 |
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※裁判官・裁判員評議は予定では18、19、24、31日 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
控訴審 大阪高裁(中谷雄二郎裁判長) |
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2013年8月1日、弁護側は高裁判決を不服として最高裁に上告 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
上告審 最高裁第3小法廷(山崎敏充裁判長) 事件番号:平成25年(あ)1329号
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2016年3月11日付けで、最高裁第3小法廷(山崎敏充裁判長)は48歳被告の判決訂正申し立てを棄却決定 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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氏名 | 罪名 | 第一審 | 控訴審 | 上告審 | ||||
求刑 | 判決 | 裁判所・日付 | 判決 | 裁判所・日付 | 判決 | 裁判所・日付 | ||
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殺人などの罪 | 求刑死刑 | 死刑 | 大阪地裁 2011/10/31 |
控訴棄却 | 大阪高裁 2013/7/31 |
上告棄却 | 最高裁第3小法廷 2016/2/23 |
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