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少年殺人事件

殺人事件、裁判員裁判、性犯罪のコンテンツで扱っている事件の一覧

宮城石巻3人殺傷事件


事件概要

 2010年2月10日午前6時40分頃、宮城県石巻市の民家に押し入った18歳の少年が、男女3人を包丁のようなもので次々に刺し、2人が死亡、1人が胸を刺され重傷を負った。少年は女性1人を連れて乗用車で逃走。

 宮城県警は、同日午後1時過ぎ18歳解体工の少年Aの身柄を確保。一緒にいた別の17歳無職の少年Bと共に未成年者略取と監禁容疑で現行犯逮捕。

 3月4日、県警石巻署捜査本部は、民家に侵入し、20歳女性と18歳女子高生を刺殺、20歳男性に重傷を負わせたとして、18歳少年Aと17歳少年Bを殺人、殺人未遂などの容疑で再逮捕。同26日、仙台地検は「刑事処分相当」の意見を付け、仙台家裁に送致。

 仙台地検は、4月28日、仙台家裁から逆送された17歳少年Bを殺人ほう助などの罪で仙台地裁に起訴。同30日、同家裁から逆送された元解体工の18歳少年Aを殺人、殺人未遂などの罪で仙台地裁に起訴した。
更新日時:
2010年04月30日




事件経過

日付 時刻 摘要
2010 02/09 18:00頃 元交際相手の少年が南部さん方に押しかけトラブルに。
警察官らが南部さん方からの通報で駆けつけるが、少年は既に立ち去った後。
02/10 6:40頃 少年2人が南部さん方に再び押しかけ、持っていた包丁で男女3人を殺傷。
6:43頃 異変に気付いた近所の住民が119番通報。2人の少年は次女を連れ去り乗用車で逃走。
13:05頃 石巻署が市内の知人宅にいた2人を発見。一緒にいた次女を保護。
2人の少年を未成年者略取と監禁容疑の現行犯で逮捕。

更新日時:
2010年2月17日




問われている罪

本件
刑法

(殺人)
第百九十九条  人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

(未遂罪)
第二百三条  第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。

(未成年者略取及び誘拐)
第二百二十四条  未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。


銃砲刀剣類所持等取締法

第三十一条の三  第三条第一項の規定に違反してけん銃等を所持した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。この場合において、当該けん銃等の数が二以上であるときは、一年以上十五年以下の懲役に処する。

別件
刑法

(傷害)
第二百四条  人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

罪名 該当法 法定刑 量刑例
殺人罪 刑法第199条 死刑、無期、5年以上の懲役 主たる罪が殺人罪の場合
殺人未遂罪 刑法第203条
傷害罪 刑法第204条 15年以下の懲役、50万円以下の罰金
未成年者略取罪 刑法第224条 3月以上7年以下の懲役
銃刀法違反(所持)の罪 銃刀法第31条の3 1年以上10年以下の懲役
1年以上15年以下の懲役

※ 求刑死刑に対しての判決例死刑がやむを得ない場合死刑執行方法
更新日時:
2010年4月30日




少年事件での刑事処分

 少年事件(14歳以上)は、原則として家庭裁判所に送致され、家庭裁判所が、審判不開始、不処分、保護処分(少年院送致、保護観察)、検察官送致(逆送)などの判断をする。ただし、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪(殺人、強盗致死などの罪)の事件で、その罪を犯した時に16歳以上の少年については原則逆送(少年法第20条第2項)。

少年法

(検察官への送致)
第二十条  家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
2  前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るものについては、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。

 家庭裁判所が少年を刑事処分にする必要があると認めた場合、検察官送致(逆送)した後、地方裁判所で刑事裁判として審理される。少年法では、罪を犯した時に18歳未満の者に対しては、死刑で処断すべき時であっても無期刑を科す(少年法第51条第1項)ことになっているが、18歳以上の場合は制限されていないため、罪責が重い場合には、成人同様、刑罰に死刑の選択もあり得る。

少年法

(死刑と無期刑の緩和)
第五十一条  罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、死刑をもつて処断すべきときは、無期刑を科する。
2  罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、無期刑をもつて処断すべきときであつても、有期の懲役又は禁錮を科することができる。この場合において、その刑は、十年以上十五年以下において言い渡す。

更新日時:
2010年2月17日




時系列
日付 摘要
2010 02/10 午前6時40分頃、男女3人が刺される。20歳女性と18歳女子高生が死亡、20歳男性が重傷。
午後、宮城県警は、18歳少年Aを石巻市内で身柄確保。一緒にいた別の17歳少年Bと共に未成年者略取と監禁容疑で現行犯逮捕。
県警が殺害された2人を司法解剖した結果、出血性ショック死と判明。3人の刺し傷は腹や胸など前部に集中し、抵抗した際にできる防御創がほとんどなかった。宮城県警は石巻署に捜査本部を設置。
02/11 午前、捜査本部は18歳少年Aと17歳少年Bを未成年者略取と監禁容疑で仙台地検に送検。
03/04 県警石巻署捜査本部は、民家に侵入し、男女3人を死傷させたとして、18歳少年Aと17歳少年Bを殺人、殺人未遂などの容疑で再逮捕。
03/26 仙台地検は、殺人などの非行事実で18歳少年Aを、殺人ほう助などの非行事実で17歳少年Bを、「刑事処分相当」の意見を付け、仙台家裁に送致。
仙台家裁は、2人を少年鑑別所に2週間入所する観護措置に(3回延長可)。
04/19 仙台家裁で殺人ほう助、殺人未遂ほう助の非行事実で送致された17歳少年Bの少年審判。
「殺人行為そのものを阻止したり犯行から離脱したりする機会は何度もあった」として、刑事処分相当と判断し、検察官送致(逆送)を決定。
04/21 仙台家裁で殺人、殺人未遂などの非行事実で送致された18歳少年Aの少年審判。
「結果は極めて重く、犯行態様も殺意をもって無抵抗の被害者をためらいなく次々と刺すなど冷酷非道。計画性も認められる」として、刑事処分相当と判断し、検察官送致(逆送)を決定。
04/28 17歳少年が犯行に使った牛刀(刃渡り18cm)を調達するなど手助けしたとして、仙台地検は、17歳少年Bを殺人ほう助などの罪で仙台地裁に起訴
04/30 仙台地検は、元解体工の18歳少年Aを殺人、殺人未遂などの罪で仙台地裁に起訴
11/15 少年Aの第一審 初公判
11/19 少年Aの第一審 論告求刑公判 検察側は被告の少年Aに対して死刑を求刑
11/25 少年Aの第一審 判決公判 仙台地裁(鈴木信行裁判長)は被告Aに対して求刑通り死刑を言い渡し
12/06 少年Aの弁護団は、判決を不服として控訴
12/13 少年Bの第一審 初公判
12/16 少年Bの第一審 論告求刑公判 検察側は被告の少年Bに対して懲役4年以上8年以下の不定期刑を求刑
12/17 少年Bの第一審 判決公判 仙台地裁(川本清巌裁判長)は被告Bに対して懲役3年以上6年以下の不定期刑を言い渡し
2011 01/05 午前0時、検察、弁護側共に控訴せず、被告Bの懲役3年以上6年以下の不定期刑判決確定
11/01 少年Aの控訴審 初公判
2014 01/31 少年Aの控訴審 判決公判 仙台高裁(飯渕進裁判長)は1審判決を支持、弁護側控訴を棄却
22歳被告Aの弁護側は即日上告
2016 04/25 少年Aの上告審 口頭弁論
06/16 少年Aの上告審 判決 最高裁第1小法廷(大谷直人裁判長)は24歳被告の上告を棄却
06/27 少年Aの弁護側は最高裁に判決訂正を申立て
06/29 最高裁第1小法廷(大谷直人裁判長)は、被告側の判決訂正申し立てを棄却
更新日時:
2016年7月1日




本件の犯罪行為を死刑適用基準に照らし合わせてみると・・・

 本件では、死刑を求刑されています。はたして、死刑がやむを得ない犯罪行為と言えるのか、参考までに、死刑に関してのページの死刑適用基準で紹介した以下の12項目の要件を本件に当てはめて書いておきます。

1 犯罪の性質
2 殺人の計画性
3 犯罪の主導性
4 犯行の動機及び動機への情状
5 犯行態様、特に殺害方法の執拗性、残虐性
6 結果の重大性、特に殺害された被害者数
7 遺族の被害感情
8 社会的影響
9 犯人の年齢
10 殺人の前科
11 犯行後の情状
12 犯行後の反省

要件 該当
1 犯罪の性質

 別れを切り出された妹と復縁したいという己の欲望を満たしたいがため、邪魔な存在の姉を殺すという身勝手な犯行。罪は殺人罪だが、利欲的な犯行なため、罪質は悪い。
2 殺人の計画性

 事件の前に、電話で友人に「姉が交際に反対している。やってやる。殺してやる。そのための刃物も買った。罪をかぶせるために無職少年に指紋を付けさせた」と、話しています(刃物は買ったのではなく、共犯者が万引きして入手)。

 事前に、殺すことを計画し、殺傷能力が高い凶器を用意し、殺人。突発的な殺人ではなく、殺人計画性は強固なものになり、最悪。
3 犯罪の主導性

 前もって、凶器を万引きで調達させたり、罪をかぶせるために共犯の指紋を凶器に付けさせたりして、自分が捕まらないように殺人計画を立てている。元解体工の少年が終始主導している。
4 犯行の動機及び動機への情状

 自分の暴力のために、被害者の妹から別れを切り出されたのにも関わらず、復縁に邪魔だと思った姉を殺そうとした身勝手な動機。動機に酌むべき事情は皆無。
5 犯行態様、特に殺害方法の執拗性、残虐性

 牛刀を持って被害者宅に侵入。「どうせ警察に捕まるなら殺す」と言って、その牛刀で被害者宅にいた姉や妹の友人の腹を刺し、なだめようとした知人男性の胸を刺した。

 腹や胸など、心臓や大動脈を傷つけ致命傷となりやすい部分に集中し刺して、2名を出血性ショック死させている。
6 結果の重大性、特に殺害された被害者数

 被害死者2名、重傷者1名と、重大な結果。
7 遺族の被害感情

 重傷となった被害者は、「身勝手な行動で2人を殺した被告のことは、極刑になっても絶対許さない」。被害者遺族は、「少年が生きているだけで怖い。極刑を望みます」と被害感情は峻烈。
8 社会的影響

 被害者の妹とは付き合っていた時期があったかもしれないが、別れているので被害者の妹とは他人。他人の姉なので、当然他人。また、妹の友人も他人の友人だから他人。親子でも、兄弟でもない他人を殺しているので公共性は大。

 亡くなった友人に至っては、そこに居ただけで、巻き添えを食らって殺されているので、無差別殺人と同じで公共性は最大。
9 犯人の年齢

 少年であっても、犯行時18歳を超えているので、死刑適用に問題なし。
10 殺人の前科

 初犯であっても、被害死者が複数のため、この要件については考慮の必要なし。

 ただし、普通の初犯とは違い、傷害の非行事実で保護観察中であったのにも関わらず、罪の重い殺人行為を起こしたということで、犯罪性傾向が強い状態と言える。
11 犯行後の情状

 3人を殺傷した後、妹を拉致し、前もって用意しておいた逃走用の車を乗り換えながら逃走。重傷の被害者が証言したことで、事件日に犯人が元解体工の少年と分かっていたのにも関わらず、凶器に自分の指紋が付いていないことを分かっていたせいなのか、逮捕後、2週間程度は否認。よって、犯行後の情状は悪い。
12 犯行後の反省

 逮捕後2週間も否認し続けていたのだから、反省していない。

 また、公判の被告人質問で「自分のしたことを絶対忘れないで、一生償っていきたい」と、泣いて謝罪したようだが、「被告は(実母への暴力で)家裁で審判を受けた経験があり、『泣いたり、父親がいない家庭事情を話すと、裁判官の同情が買える』と話していた」と公判中に証言されている。

 本当に反省し、公判までに被害者、被害者遺族に対して誠心誠意、謝罪していれば、遺族の処罰感情も多生なりとも和らぐが、遺族の処罰感情は峻烈。

 まだまだ、表面上の反省と判断せざるを得ないため、過度に評価できない。被告は、もっと、罪と向き合い、内省を深めることが必要。

 死刑適用基準の要件と照らし合わせると、本件は、被害死者が複数ということで殺人前科の要件を除外していますので、全ての要件を満たしている事件になります。もし、本件が20歳以上の犯行であれば、「死刑がやむを得ない」と判断される可能性が非常に高くなる事件と言えます。

 ただし、本件は少年事件で更生可能性も考慮するため、成人と同じように判断できないのですが・・・ 複数犯による犯行、殺人計画性強固、罪を被せるための身代わりを用意、罪を被せるための隠ぺい工作、少年犯罪は罪が軽いという状況を悪用した犯行など、同様に少年事件で死刑判決が出た光市母子殺害事件より悪質な事件に感じます。

 ですので、罪質が悪く、結果も重大で、罪責が非常に重くなるため、もし、仮に更生可能性が少しあったとしても、刑を減軽するまでの特段の事情にならず、死刑の選択もやむを得ない状態だと思いますね。
更新: 2010年11月24日



罪責が重い場合の無期刑は終身刑に・・・

 少年事件の判断は非常に難しいですが、本件のようにこれだけ罪責が重いと、弁護側主張の少年院送致の保護処分はありえませんので、刑事処分になります。

 また、有期懲役刑もありえませんから、無期懲役か死刑のどちらかなのですが・・・

 無期刑というのは、満期が無い刑で、基本的に死ぬまで刑となる罰です。ただし、制度上仮釈放されることがあるので、死んで満期となる前に、刑務所から仮釈放される可能性があります。

 また、無期刑には、死刑に近くて無期刑になった受刑者も居れば、有期刑では軽すぎる(現在仮釈放されている対象者の事件当時の刑法での有期は懲役20年が最長)から無期刑へと有期に近い状態で無期刑になった受刑者も居るなど、受刑者の罪責の幅が広くなっています。

 同じ無期刑受刑者でも、死刑に近い罪責の者と有期に近い罪責の者を同様にすることはあり得ません。当然の事ながら罪責の重い者の無期刑受刑者の仮釈放の審査は厳しくなります。

 本件のような死刑の可能性にある罪責で無期懲役の場合は、仮釈放の可能性は限りなくゼロに近く、寿命がきて獄死するまで受刑しなければならない重い刑罰になる可能性が高くなります。

 何故そうなるのか?参考までに、先だって発表された、無期刑の運用状況の中の仮釈放の審査で不許可になった2名殺害した受刑者の情報で簡単に説明しておきます。

No. 判断結果 判断時年齢 判断時
在所期間
主な罪名 被害者数
負傷者を含む
被害者数
内死者数
10 × 許可しない 70歳代 50年8月 殺人 その他 2人 2人
12 × 許可しない 80歳代 35年3月 殺人   2人 2人

 1人は70歳代で約51年、もう1人は80歳代で約35年。判決が確定してからの年数になりますので、逆算して犯行時を推測すると、20歳代と40代歳頃になります。

 今回の審査でこの受刑者達は、仮釈放を許可されていませんので、次回の審査は、10年経過した時になります。

 と、言うことは、次回の審査時に受刑者は、それぞれ80歳代と90歳代になっています。

 80歳代の受刑者は在所期間が60年になりますし、90歳代の受刑者は在所期間が45年ですが、はたして寿命があって生きているのでしょうか?80歳代でも残りの人生が僅かですし、90歳代だと平均寿命を越してしまうので、どちらかと言うと、獄死している可能性の方が高くなります。

 罪責が重い無期刑は、このように50年経過しても仮釈放にならない場合もありますし、獄死するまで出れない場合もあります。あくまで、仮釈放の可能性があると言うだけのことで、仮釈放になるとも限りません。よって、罪責が重い場合には、死刑だけでなく無期刑も厳刑となります。

 本件の判決が死刑になるのか、無期になるのかは、どちらの判決が出ても不思議でない事件ですから、両方とも可能性はありますが、どちらにしても被告にとって厳罰となることは確かですし、被告の残りの人生は塀の中になってしまいます。

 ただ、被告にしてみても、無期刑がこれほど重い刑でもあるということを知らないと思いますし、光市の被告のように死刑を回避して無期になった際、短期の受刑をすれば仮釈放で出れるように勘違いしてる可能性もあると思います。

 実際に体験してから分かるようでは遅いのですが・・・

 軽微な罪ならいざ知らず、重責が伴なう重い罪の場合は、例え初犯であっても取り返しのつかない事態に陥ります。

 本件については、どちらの判決になろうとも、被告には、己の犯した罪の重さを自覚し、反省し続け、生ある限り贖罪の日々を送ってもらいたいと思いますね。
更新日時:
2010年11月24日




(少年Aの)公判関係

第一審 仙台地裁(鈴木信行裁判長) 裁判員裁判

事件番号:平成22年(わ)第258号
日付 摘要
2010 11/15 初公判  裁判員選任手続き
(検察・弁護側:冒頭陳述)
 少年は3人殺傷に関し、起訴事実を認める。未成年者略取や傷害罪など一部については否認
 冒頭陳述で、検察側は「共犯の無職少年に罪をかぶせようと周囲に無職少年の犯行であると説明するなど、狡猾で残忍な犯行」。「被告が自分への愛情を失っていた次女にいら立ち、その姉らが仲を引き裂こうとしていると思い込み、殺害した」と指摘。「犯行は残忍で被害結果は重大。犯行にためらいがなく、更生の可能性はない」と述べた。
 弁護側は「事件は交際を邪魔されたくないと思い詰めたことで起きた」と主張。母親の愛情を十分に受けられず、暴力を間近で見て育ったことなどを挙げた上で「専門家が少年の人格に矯正の可能性があると判断している」などと述べ、保護処分が相当と訴えた。
11/16 第2回公判 (共犯の無職少年、負傷した会社員男性の証人尋問)
 重傷を負った男性は「身勝手な行動で2人を殺した被告のことは、極刑になっても絶対許さない」と声を震わせ証言。
 無職少年は、「罪をなすり付けようとした被告は自分勝手で、ひきょう者。被告と付き合っていた期間は今までで一番つらい時期だった」。「前日の夜、被告から『刃物を万引して、おまえが刺せ。革手袋をすれば指紋が付かないから完全犯罪だ』と命令された。『刃を上にして斜めに突き刺すと人体に刺さる』とも指示された」と語った。
11/17 第3回公判 (次女の証人尋問)
 元交際相手の18歳少女は「被告が生きているだけで怖いので、極刑を望む」と述べ、「(少年は)人間を人間と思っていない。(殺害された)姉と友人を返してほしい」と泣きながら訴えた。
11/18 第4回公判 (被告人質問、被告の母親の証人尋問)
 少年は「自分のしたことを絶対忘れないで、一生償っていきたい」と涙ながらに語った。
 母親は、男性裁判員が「どういう刑を希望するか」と尋ねると、約30秒間すすり泣き「2人もあやめてしまいましたが、それでも大切な息子です」と答えた。弁護人の問いには「今後、何があっても息子を見捨てません」と述べた。
11/19 第5回公判 (被告人質問)
 少年は「僕も被害者の立場なら、犯人に極刑を求めたと思う」と話し、被害者参加人として出廷した父親の「自らの命をもって償う気持ちはあるか」の問いに対して、「あります」と答えた。
(検察側:論告求刑、弁護側:最終弁論、被告の最終陳述)
 検察側は、「身勝手で残虐極まりない。更生の可能性は期待できない」などとして、被告の少年に対して死刑を求刑
 少年は「僕みたいなことをしてしまう人がもう現れないように、厳しく処罰して下さい」と述べた。
11/22 裁判官・裁判員 評議
11/24
11/25 第6回公判 (判決) 仙台地裁は、被告に対して求刑通り死刑を言い渡し
 少年は閉廷後、「判決を受け入れたい」と話した。弁護団は、事件当時の年齢を重視すべきだなどとして、控訴を促す方針。
 判決公判では、52枚の傍聴券を求め600人以上が列をつくった。
2010 12/02 少年は「(殺害された2人から)許されないのではないか」と、控訴について消極的な姿勢を示した
12/06 少年の弁護団は、判決を不服として控訴(弁護団が控訴を説得し、少年が同意)
 
控訴審 仙台高裁(飯渕進裁判長)

事件番号:平成23年(う)第1号|傍聴券交付情報;仙台高等裁判所
日付 摘要
2011 11/01 初公判 (冒頭陳述) 弁護側は1審判決について「重大な事実誤認があり、量刑も重すぎる。審理も尽くされていない」と述べ、破棄するよう訴える
12/16 第2回公判  
2012 02/09 第3回公判  
07/25 第4回公判  
10/23 第5回公判  
12/06 第6回公判 (被告人質問) 殺意の有無について問われた元少年は「殺すつもりはなく、刺した時のことは頭が真っ白になって覚えていない」と証言
2013 01/22 第7回公判  
02/26 第8回公判  
04/26 第9回公判 (証人尋問) 共犯者の元少年が弁護側の証人として出廷
「被害者宅に入ったのは殺害ではなく脅す目的。被告は突発的に被害者を刺した」などと1審時の証言を覆し、犯行の計画性を否定
05/30 第10回公判 (被告人質問) 1審では否認していた事件直前の元交際相手の女性への暴行などに対して、元解体工は認める供述
06/07 第11回公判  (被告人質問)
07/11 第12回公判  (証人尋問) 証人尋問で遺族らは「衝動的な犯行という被告の主張は納得できず、死刑を求める」と述べる
08/29 第13回公判   
11/21 第14回公判 (最終弁論) 弁護側は死刑判決の破棄を、検察側は控訴棄却を求め結審
2014 01/31 第15回公判 (判決) 仙台高裁(飯渕進裁判長)は、被告が当時18歳だったことや、幼少期に虐待を受けて育ったことなど、「酌むべき事情は最大限考慮した」上で極刑が相当と判断。「極めて身勝手で短絡的な犯行で、死刑を回避する理由はない」として、1審判決を支持、弁護側の控訴を棄却
2014年1月31日、被告Aの弁護側は即日上告

上告審 最高裁第1小法廷(大谷直人裁判長)

事件番号:平成26年(あ)第452号
日付 摘要
2016 04/25 口頭弁論 弁護側は、「犯行当時は18歳になったばかりで未成熟だった。計画性も乏しい」と死刑回避を主張、検察側は「犯行時が少年とはいえ、執拗かつ残忍な犯行で結果は重大だ」と上告棄却を求める
06/16  判決 最高裁第1小法廷は、「3人を殺傷した罪質、結果は重大。犯行時の年齢や前科がないことを考慮しても、死刑を是認せざるを得ない」と24歳千葉祐太郎被告の上告を棄却
2016年6月27日、24歳被告の弁護側は判決訂正の申立てをした。最高裁第1小法廷(大谷直人裁判長)は、上告審の死刑判決に対する被告側の訂正申し立てを6月29日付で棄却し、死刑判決が確定した。
更新日時:
2016年7月1日




死刑を求刑された少年Aへの仙台地裁判決の要旨

 少年Aへの判決要旨は次の通り。

 犯行態様の残虐さや結果の重大性からすれば、保護処分相当性を認める余地はなく、死刑と無期懲役のいずれを選択すべきかが問われている。最高裁が示した永山基準に従って考察する。

 【犯行態様】

 自分の欲しいものを手に入れるために人の生命を奪うという強盗殺人に類似した側面のある重大な事案。

 被告は元交際相手の少女の姉南部美沙さんに対し、ためらうことなく、牛刀を腹部に思い切り突き刺した上、2、3回前後に動かすなどして殺害。逃げようとする友人の大森実可子さんが「お願い、許して」と命ごいをするのを無視して「オメエもだ」などと言いながら胸部を思い切り突き刺した。衝撃で身体が浮き上がるほどの力で3、4回も刺して殺害した。

 さらに、男性がなだめるのも聞かずに、ちゅうちょせず心臓に近い場所を強い力で突き刺した。

 被害者がいずれも無抵抗だったのに、ためらうことなく殺傷行為に及んでおり、犯行態様は極めて執拗かつ冷酷で、残忍さが際立っている。

 他方、現場でまず少女に声を掛けて連れ出そうとし、直ちに殺傷行為に及んでいないことから、綿密に計画された犯行とまでは認められない。

 しかし、被告は連れ出しを邪魔した者は殺害する意図で凶器や革手袋を準備し、共犯者を身代わり犯人に仕立て上げようとするなど周到な計画を立てた上で、その通りに犯行に及んでおり、このような計画性は被告に不利な事情として考慮せざるを得ない。もっとも、計画には稚拙な側面があり、それほど重視することは相当でない。

 【結果】

 2人の尊い生命が失われ、さらに1人の生命も失われる危険性が高かった。被害者が感じた無念さや苦痛は察するに余りある。被害者には何の落ち度もなかった。

 男性が極刑を望む心情も理解できる。南部さんの遺族、大森さんの遺族も峻烈な処罰感情を持ち、極刑を望んでいる。結果の重大さ、深刻さの現れとして量刑上考慮するのが相当。

 【動機】

 被告は少女を手元に置きたいという身勝手な思いから、犯行前日に少女宅へ不法侵入し、無理やり連れ出そうとしたが、警察へ通報されるなどして制止された。当時保護観察中で警察に通報されると少年院送致になると思っていたことから激怒し、邪魔する者を殺そうと考えて犯行に及んでおり、動機は極めて身勝手かつ自己中心的だ。

 近隣住民へ多大な不安を与えるなど大きな社会的影響を与えたことも、量刑上看過できない。

 【更生可能性】

 被告は昨年6月に実母への傷害事件で保護観察処分を受けたのに、少女に暴行を繰り返し、警察に警告を受けても態度を改めずに犯行に及んでおり、犯罪性向は根深い。

 少女や自分の家族に常習的に暴行を加え、ちゅうちょせず残虐な殺傷行為に及んだ。保身を図るため共犯者に凶器を準備させ、身代わり犯人となるよう命令している。

 犯行後、血の付いた牛刀を少女に示し、南部さんらが死亡した内容のニュースを見せ「何で泣いてんの」と言ったことなどの言動からすれば、被告には他人の痛みや苦しみに対する共感が全く欠けており、その異常性やゆがんだ人間性は顕著。

 他者への共感の前提となる周囲の者の言動に関する認識自体に相当なゆがみも認められる。

 他方、被告は公判で涙を流すなど犯行を後悔し、一応の反省はしている。しかし、反省の言葉は表面的。今も自己の事実認識にゆがみがあることについて自覚に乏しく、不合理な弁解をしている。事件の重大性を十分に認識しているとはいえず、反省には深みがない。

 実母が被告の人間性のゆがみを正確に認識しているか疑問があるなど、実母による指導、監督に期待できない。

 被告の更生可能性は著しく低い。

 被告が当時18歳7カ月だったことは、相応に考慮すべき事情だが、残虐さや結果の重大性にかんがみると死刑を回避すべき決定的な事情とまではいえず、ことさら重視できない。

 被告の鑑別結果は、人格の偏りが大きく、暴力や共感性などの問題は深刻で、矯正には相当の時間を要するという点が主眼。矯正可能性を認めた根拠は、年齢など抽象的なものにすぎない。

 【結論】

 犯行態様の残虐さや結果の重大性からすれば、被告の罪責は誠に重大で、被告なりの反省など有利な事情を最大限考慮しても、極刑を回避すべき事情があると評価できず、罪刑均衡や一般予防の見地からも、極刑で臨むほかない。


更新日時:
2010年11月25日




(少年Bの)公判関係

第一審 仙台地裁(川本清巌裁判長) 裁判員裁判

事件番号:平成22年(わ)第257号|傍聴券交付情報:仙台地方裁判所
日付 摘要
2010 12/13 初公判 (検察・弁護側:冒頭陳述) 殺人ほう助などの罪に問われた無職少年は「間違いありません」と起訴事実を認めた。検察側は「凶器を万引するなど事件の重要な部分で助けた」と刑事罰の適用を求め、弁護側は「元解体工少年から殺すと脅され、逆らえなかった」として保護処分が相当と主張
12/14 第2回公判 (証人尋問) 無職少年の中学時代の同級生の母親が弁護側証人として出廷し「自分の子どもが被告と同じ立場ならば、事件に巻き込まれていたと思う」と証言
12/15 第3回公判 (被告人質問)
12/16 第4回公判 (検察側:論告求刑、弁護側:最終弁論)
 検察側は懲役4年以上8年以下の不定期刑を求刑。弁護側は保護処分を求めた。
12/17 第5回公判 (判決) 被告に対して、懲役3年以上6年以下の不定期刑を言い渡し
 自分や家族を守るために元解体工の少年の命令に従ったとする少年側の主張について、「理解はできるが、少年のほう助行為は3人の死傷に結び付く重要なもので、保護処分とするのは社会的に許されない」とした。
リンク:共同通信

 2011年1月5日午前0時、検察・弁護側共に控訴せず判決確定
更新日時:
2011年1月5日




起訴された被告達の判決状況
 
仮称 年齢 職業 罪名 死者数 求刑 判決 判決日 審理 上訴
少年B 17 無職 殺人ほう助罪
殺人未遂ほう助罪
未成年者略取罪
2 求刑懲役4年−8年 懲役3年−6年  2010/12/17 仙台地裁 確定
少年A 18 解体工 殺人罪
殺人未遂罪
未成年者略取罪
傷害罪
銃刀法違反罪
2 求刑死刑 死刑 2010/11/25 仙台地裁 控訴
控訴棄却  2014/1/31 仙台高裁 上告
上告棄却 2016/6/16 最高裁第1小法廷 確定
※年齢、職業は事件時
更新日時:
2016年7月1日




控訴審までに死刑判決が下りた被告の判決状況

仮称 氏名 罪名 第一審 控訴審 上告審
求刑 判決 裁判所・日付 判決 裁判所・日付 判決 裁判所・日付
少年A 千葉祐太郎 殺人などの罪 求刑死刑 死刑 仙台地裁
2010/11/25
控訴棄却 仙台高裁
2014/1/31
上告棄却 最高裁第1小法廷
2016/6/16
更新日時:
2016年6月16日



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