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殺人事件について…

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京都舞鶴高1女子殺害事件


事件概要

 2008年5月8日、京都府舞鶴市の15歳高校1年生の女子が、朝来川の南側斜面で死亡しているのが見つかった。

 京都府警は殺人、死体遺棄の疑いで舞鶴署に捜査本部を設置。防犯カメラに、被害者と一緒に自転車を押して歩く男性の姿が写っていたことなどから、交友関係などを中心に捜査していた。同年11月、京都府警舞鶴署捜査本部は、殺人、死体遺棄容疑で、遺体発見現場の近くに住む無職の60歳男宅を家宅捜索。

 2009年4月7日、京都府警舞鶴署捜査本部は、15歳女子高生を殺害したとして、当時、現場近くに住み、窃盗罪で服役中の60歳男を殺人、死体遺棄容疑で逮捕。同28日、京都地検は、殺人、強制わいせつ致死罪で起訴した。


特集
あの事件は今 舞鶴女子高生殺害事件 - 文藝春秋(2011年1月20日)

被告との一問一答
容疑者との一問一答 舞鶴の高1殺害 - 共同通信(2009年4月7日)

被告が取った不可解な行動
「帽子と服捨てた」と周囲に 京都・舞鶴の高1殺害 - 共同通信(2009年4月8日)
更新日時:
2011年2月13日




時系列
日付 摘要
2008 05/06 舞鶴市内の15歳女子高生が行方不明に
05/08 午前8時45分頃、舞鶴市の朝来川の南側のり面で、女性とみられる遺体を舞鶴署員が発見
殺害後、遺棄されたとして、京都府警は舞鶴署に捜査本部を設置
11/15 舞鶴市内で女性下着とさい銭約2000円を盗んだとして、舞鶴署は、60歳男を窃盗容疑で逮捕
11/28 府警舞鶴署捜査本部は、殺人、死体遺棄容疑で60歳男宅を家宅捜索
12/03 府警舞鶴署捜査本部は、6日間連続の家宅捜索を終了
2009 01/20 京都地裁舞鶴支部で窃盗事件の初公判
60歳男は起訴事実を認め、検察側は懲役2年を求刑し、即日結審
02/25 京都地裁舞鶴支部は、60歳男に窃盗罪で懲役1年の実刑判決を言い渡し
04/07 府警舞鶴署捜査本部は、窃盗罪で服役中の60歳男を、殺人、死体遺棄容疑で逮捕
04/09 府警舞鶴署捜査本部は、60歳男を、殺人、死体遺棄容疑で送検
04/28 京都地検は、殺人、強制わいせつ致死罪で60歳男を京都地裁へ起訴
2010 12/21 京都地裁で殺人、強制わいせつ致死事件の初公判 62歳被告は起訴事実を全面否認し、無罪を主張
2011 03/18 第一審 論告求刑公判 検察側は被告に対して死刑を求刑
05/18 第一審 判決公判 京都地裁は、62歳被告に対して無期懲役を言い渡し
62歳被告は、判決を不服として大阪高裁へ控訴
05/31 京都地検は無期懲役とした京都地裁判決を不服とし、大阪高裁に控訴
2012 06/13 控訴審 初公判
12/12 控訴審 判決公判 大阪高裁(川合昌幸裁判長)は、「犯人とするには合理的な疑いが残る」として、無期懲役とした一審京都地裁判決を破棄、無罪を言い渡し
2014 07/08 上告審 最高裁第1小法廷(横田尤孝裁判長)は、検察側上告を棄却する決定
更新日時:
2014年7月11日




問われていた罪

刑法


(懲役)
第十二条  懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。

(有期の懲役及び禁錮の加減の限度)
第十四条  死刑又は無期の懲役若しくは禁錮を減軽して有期の懲役又は禁錮とする場合においては、その長期を三十年とする。
2  有期の懲役又は禁錮を加重する場合においては三十年にまで上げることができ、これを減軽する場合においては一月未満に下げることができる。

(殺人)
第百九十九条  人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

(強制わいせつ)
第百七十六条  十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

(強制わいせつ等致死傷)
第百八十一条  第百七十六条若しくは第百七十八条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。

罪名 該当法 法定刑 量刑例
殺人罪 刑法第199条 死刑、無期、5年以上の懲役 主たる罪が殺人罪の場合

性犯罪と殺人などの罪の場合
強制わいせつ致死罪 刑法第181条第1項 無期、3年以上の懲役

※ 死刑がやむを得ない場合死刑執行方法無期懲役仮釈放者の平均在所年数
更新日時:
2011年2月13日




被告の前科

 本件は、殺人、強制わいせつ致死罪で起訴されているように、事実であれば、利欲的な殺人で強盗殺人と同様に罪質が悪く、被害死者が1名であっても死刑や無期懲役などの厳刑が選択される可能性が高くなります。また、量刑を選択する際に、死刑も考慮せざるを得ない場合には、死刑適用基準の要件にあるように、過去の殺人前科が影響してきます。

 他の死刑適用基準の要件も関係してきますので、罪質や被害者死者数だけでは量刑は分かりませんが、同一条件であれば、死者数が1名より2名、2名より3名と、多い方の罪が重くなるのは当たり前のことです。よって、本件での被害死者が1名であっても、被告に殺人前科があれば、刑罰に死刑がやむを得ないと、死刑が選択される可能性が高くなります。

 事件について書く場合、通常、被告の前科に触れませんが・・・ 検察は、本件の被告に対して求刑死刑で臨む可能性が高いと思われますし、何故(1名の被害者で)検察がそういう姿勢になる可能性が高いと思うのかを読まれた方が分かりやすくなるように、簡単にですが、本件の被告の過去の事件について書いておきます。

事件日 摘要
1973/09/17  料理店員の25歳男は、内縁の女性との別れ話のもつれから滋賀県草津市の路上で内妻の26歳女性とその兄を刃物で刺して殺害(死者2名)。さらに近くの民家に押し入って住人の女性2人を人質に籠城した。

 殺人、逮捕監禁などの罪で懲役16年の実刑判決。約14年間服役し出所
1991/09/12  午後7時25分頃、21歳女性にいたずらしようとして女性の自転車に後部から体当たりして転倒させた。

 自転車で通りかかった自衛官が悲鳴を聞いて駆けつけ、男を追跡。騒ぎに気づいた別の自衛官と共に工員の43歳男を現行犯逮捕し、舞鶴東署に引き渡した。舞鶴東署は、男を傷害、強制わいせつ容疑で逮捕。

 傷害、強姦未遂罪で懲役6年の実刑判決。服役期間不明
2008/11/15
(逮捕日)
 舞鶴市内で女性下着とさい銭約2000円を盗んだとして、舞鶴署は60歳男を窃盗容疑で逮捕した。

 2009年2月25日、京都地裁舞鶴支部は窃盗罪で懲役1年の実刑判決。控訴期限の3月11日までに控訴せず判決確定。未決勾留日数の60日を差し引いた約10ヶ月間が服役期間。

 1973年の事件で約14年間服役となっていますが、当時の刑法の規定では、有期の上限が15年で併合罪でも最長20年でした。現行法では有期の最長が30年ですから、30年を超えないと無期にならないのですが、当時は20年を超えれば無期になっていました。

 現行の無期刑では、30年経過して初めて仮釈放の審査を受ける資格を得るのですから、当時とは大違いですが・・・ 当時の仮釈放は今ほど厳しくなく、便宜、仮釈放されてきましたので、仮に、無期懲役になっても、無期懲役刑仮釈放者の平均在所年数の1977年〜1988年で16年程度となっているように、受刑態度が良ければ20年未満での仮釈放も可能でした。

 当時は無期ですらそうでしたし、有期の併合罪での最長でも懲役20年でしたから、2人殺害で14年服役となっていても何ら不思議はありません。

 ただし、今なら、別れ話のもつれで内妻を刺殺し、内妻の兄とは言え、直接関係の無い人を殺害し、被害死者が2人になれば、社会的影響、結果の重大性などから、ほぼ無期懲役以上の刑になります。仮に無期なら、最短でも服役30年以上が確定しますので、服役14年で仮出所は、現在ではあり得ないことですがね。。。


※参考
2004年12月31日以前の事件(1973年、1991年の事件)
改正前の刑法の規定
刑法等の一部を改正する法律(法律第百五十六号)

(懲役)
第十二条  懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上十五年以下とする。

(有期の懲役及び禁錮の加減の限度)
第十四条  有期の懲役又は禁錮を加重する場合においては二十年にまで上げることができ、これを減軽する場合においては一月未満に下げることができる。

(殺人)
第百九十九条  人を殺した者は、死刑又は無期若しくは三年以上の懲役に処する。

(逮捕及び監禁)
第二百二十条  不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

(強姦)
第百七十七条  暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、二年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。

(傷害)
第二百四条  人の身体を傷害した者は、十年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。


2006年5月28日以降の窃盗事件(2008年に逮捕された事件)
法改正で窃盗罪に罰金刑の規定を追加
刑法(現行)

(窃盗)
第二百三十五条  他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する

 被告は、無罪を主張してますが、無罪主張にも2種類あり、本当に無実で無罪を主張する場合と、(死刑又は厳刑が予想されるなど刑に服したくないので)嘘をついて無罪主張する場合があります。本件の被告がどちらなのかは、メディアにリークされている情報だけでは分かりません。

 どちらの無罪主張にしろ、裁判所が被告を有罪と認定するにはそれなりの証拠の積み重ねが必要ですし、刑事事件では、検察に100%立証責任があります。被告を起訴した以上、検察は裁判の中で証明していくと思いますし、立証しなければなりません。
更新日時:
2011年2月13日

追記


 ちなみに、殺人前科がある場合の量刑の傾向 を別のページでまとめてありますが・・・ 殺人前科がある場合には、仮に被害死者が1名であったとしても、当該事件の罪に対して死刑はやむを得ないと、刑罰に死刑が選択されている例がいかに多いかが分かると思います。
更新日時:
2011年3月03日




公判関係

第一審 京都地裁(笹野明義裁判長)

事件番号:平成21年(わ)第519号|傍聴券交付情報:京都地方裁判所
日付 摘要
2010 12/21 初公判 (検察・弁護側:冒頭陳述、遺留品を現場で実況見分した警察官ら4人の証人尋問)
罪状認否で被告は「全部でたらめでうそです。私は無罪です」と述べ、起訴内容を否認
検察側は数々の状況証拠をあげ、「被告以外に犯人はありえない」と指摘
警察職員は、ポーチがベージュ色に見えることを確認した状況などを説明
2011 01/27 第2回公判 (飲食店の女性店員の証人尋問) 
店員は、事件直前の5月6日午後10時から翌7日午前1時までの間、被告が店にいたと説明
02/09 第3回公判 (防犯カメラ映像を鑑定した教授の証人尋問)
カメラ画像について、「耳の形や顔の輪郭などがほぼ一致し、被告と判断できる」と証言
02/10 第4回公判 (被害者の母親、遺体を解剖した法医学者の証人尋問) カメラ画像について、「娘です」と証言
母親は、「お気に入りの洋服や歩き方、耳を触る癖まで見える」と話した
02/23 第5回公判 (情報理工学部教授、トラック運転手などの証人尋問)
教授は「暗闇ではピンク色はベージュ色に見える」と。トラック運転手は「男、若そうだった」と証言
02/24 第6回公判 (弁護側の夜間の実況見分に立ち会った男性の証人尋問) 
男性は「(暗い場所では)人物は特定できない」と証言
02/25 第7回公判 (被告人質問) 
被告は、「取調官に誘導され、正しくない調書が作られた」と述べた。
調べの際に警察官から「サイフぐらい持ってるやろう」と問われ、「そうかもしれません」と答えると調書に記載された、などと主張
03/04 第8回公判 (画像解析専門の教授の証人尋問、被害者の母親の意見陳述) 
男性教授は「画質が悪すぎるため、人物や自転車を同一と判定できない」と証言
母親は「娘を失った悲しみは月日が流れても変わらない」と訴えた
03/18 第9回公判 (検察側:論告求刑、被害者遺族の意見陳述)
 検察側は「被害者の無念さは計り知れない。犯行は鬼畜の所業。冷酷、残酷かつ残虐で、極刑をもって臨むほかない」などとして死刑を求刑
03/23 第10回公判 (弁護側:最終弁論、被告人の最終意見陳述)
弁護側は最終弁論で「被告の犯行を裏付ける証拠はなく、検察官の立証には合理的疑いを入れる余地がある」と改めて無罪を主張し結審。被告も最終意見陳述で無実を訴えた。
05/18 第11回公判 (判決) 「犯行態様は冷酷残虐だが、周到に計画したり、ことさらに残忍な殺害方法を選択した事案とは異なり、死刑の選択がやむを得ないとまでは言い難い」として、京都地裁は、62歳被告に対して無期懲役を言い渡し

 検察側の論告求刑と弁護側の最終弁論を別の日に設定した場合は、検察が死刑求刑で臨む可能性が高くなります。

控訴審 大阪高裁(川合昌幸裁判長)

事件番号:平成23年(う)第889号|傍聴券交付情報:大阪高等裁判所
日付 摘要
2012 06/13 初公判 (冒頭陳述) 被告側は「状況証拠などで有罪とした一審判決は誤り」として、無罪を主張。検察側は改めて死刑を求刑
07/09 第2回公判 (被告人質問) 被告は弁護側の質問で「被害者の遺留品を見たことはない」と主張
07/27 第3回公判 (被告人質問) 被告は「私は何もしていない。釈放してほしい」と訴える
08/08 第4回公判 (遺族の意見陳述) 母親が意見陳述し、「一審でなぜ極刑にならなかったのか分からない。無残に殺された娘の無念はどれほどか」と訴える
09/07 第5回公判 (弁論) 検察側は死刑を求め、弁護側は改めて無罪を主張して結審
12/12 第6回公判 (判決) 大阪高裁(川合昌幸裁判長)は、無期懲役とした一審京都地裁判決を破棄、無罪を言い渡し
12月25日、大阪高検は、一審の無期懲役判決を破棄し、無罪とした二審判決を不服として、最高裁に上告

上告審 最高裁第1小法廷(横田尤孝裁判長)

 2014年7月8日付けで、検察側上告を棄却

 第1小法廷は、目撃者の証言について、「事件直後は年齢や目つきなどが被告の特徴と異なっていたが、取り調べが進むにつれて徐々に一致するようになった」と指摘。被告の供述についても、「当初は曖昧だったのに、長時間の取り調べで具体的なものに変わっていった」と指摘。「被告を犯人とするには合理的な疑いが残るとした二審判決に誤りはない」と結論付けた。
更新日時:
2014年7月11日




第一審(京都地裁)での論告要旨

 被告に対する論告要旨は以下の通り。

 ≪論告要旨≫

 【殺害日時や場所】

 医師の遺体解剖の結果、平成20年5月7日未明に、被害者は服を脱がされて下半身を触るなどわいせつ行為を受け、顔面を鈍器で殴られて殺されたと推定される。

 【犯人の認定】

 ■目撃証言

 中勝美被告(62)が5月7日午前1時ごろ、飲食店から自転車に乗って出た後、近くの歩道上で、自転車を押す男性と若い女性をトラック運転手の男性が目撃し、その証言も信用性が高い。

 中被告は公判で「気分次第で帰宅コースを変える」としたが、捜査段階では「ほかの道は通らない」とし、供述を変えている。

 ■防犯カメラ画像

 遺体発見現場近くの3カ所の防犯カメラ画像に、自転車の男性と女性が写っており、これは東京歯科大の橋本正次教授(法人類学)の鑑定で、男性は中被告と同一である可能性が極めて高い結果を得た。

 弁護側証人の鑑定人2人は「画素数が低く、特徴点が拾えない」としたが、その鑑定方法は中立性が疑わしい。

 ■秘密の暴露

 遺留品の薄ピンク色の化粧ポーチについて、中被告の「(第三者が)ベージュ色のポーチを捨てるのを見た」という供述は、立命館大の篠田博之教授(色彩工学)が「暗闇でピンク色はベージュ色に見える」と証言し、中被告が暗闇でポーチを実際に見たと認められる。犯行を知った日付を転々と変え、弁解も信用できない。

 【情状】

 被害者の無念さは計り知れない。犯行は鬼畜の所業で、冷酷、残酷かつ残虐な犯行だ。

 最高裁が昭和58年に示した死刑選択基準「永山基準」の判例により、中被告には昭和48年に男女2人を殺害した前科もあり、欲望を満たすために暴行して殺した犯行などをみると、その執拗(しつよう)性や残虐性などは基準を満たしている。

 【求刑】

 死刑
更新日時: 2011年3月18日




第一審(京都地裁)での最終弁論要旨

 弁護側の最終弁論要旨は以下の通り。

 ≪弁論要旨≫

 【総論】

 中被告は無実かつ無罪。

 【事件直前の中被告について検察側の主張】

 ■目撃証言

 事件発生直前に、自転車の男性と若い女性を目撃したというトラック運転手の男性について、パトカー内の事情聴取で、警察官から中被告の顔写真を見せられた後、男性は検察官から写真面割台帳を見せられ、中被告の顔写真を「迷うことなく」選んだ。男性は汚染された記憶に基づいて台帳から顔写真を選び、法廷で証言したに過ぎない。

 ■防犯カメラ画像

 自転車の男性と若い女性が写る防犯カメラ画像について、大学教授の「男性は中被告と同一の可能性が高い」という鑑定結果は、シルエットクイズと同レベルで科学的根拠がない。

 1ヶ所の防犯カメラ撮影時間と男性の目撃時間について、その間の距離は1.3キロで、人が普通の速度で歩けば19分30秒で目撃地点に到達するはずが、目撃は撮影時間から約50分後で、防犯カメラ画像と目撃された男女が同じとするには疑いが残る。

 【中被告の供述】

 ■秘密の暴露

 遺留品のピンク色の化粧ポーチについて、中被告が「ポーチは(ピンク色に似た)ベージュ色」と供述したことが“秘密の暴露”にあたると検察側が主張しているが、警察官の取り調べノートを見ると遺留品に合致している供述だけを調書にしていることがわかる。

 前もって捜査機関が遺留品を知っていて遺留品について繰り返し質問がなされ、誘導があったことは明らかだ。

 【中被告以外が犯人】

 防犯カメラ映像で、前を行く自転車の男性に女性が駆け寄る様子があり、2人は知り合い同士以上の関係にあると推定される。

 遺体発見現場近くの路上で、若い男女を見たというトラック運転手の男性の目撃証言では「自転車を押す男性はヒップホップ風の格好」とあり、一緒にいた男性が犯人ならば、真犯人は17〜22歳のヒップホップ風の男性だ。

 また、遺体発見現場は朝来川左岸の高さ約6メートルの斜面を登った山中で、当時60歳の中被告が傷ひとつ負わないまま犯行を成し遂げたとは考えられない。

 【結論】

 中被告が犯人とする合理的説明が可能な事実関係はなく、犯人ではない。中被告は無罪。
更新日時: 2011年3月24日




大阪高裁の判決要旨

 大阪高裁の判決要旨は以下の通り。

 【目撃証言】

 一審判決は、2008年5月7日午前3時15分ごろ、自転車を押す中被告とよく似た男性が若い女性といた旨の目撃者の証言の信用性を認め、中被告が集会所前交差点で被害者と一緒に歩いていたと認定した。

 しかし、目撃者の視認状況は必ずしも良いとは言えず、取調べで被告の写真を単独で見て、記憶が変容した可能性も否定できない。

 事件直後の段階では、目撃者が供述する男性の特徴は、被告と大きく異なっていたが、時間の経過に伴い被告の特徴と一致しないものが順次消失。最終的に被告の特徴とほぼ整合する内容に変遷したが、合理的な説明はつかない。別の証言や防犯ビデオの精査結果からも、男性と被告が同一と断定できない。

 【被告の供述】

 一審判決は、被告が捜査段階で被害者の化粧ポーチなどの遺留品について特徴と合致する具体的な供述をしている点に、知る機会があるのは犯人の他にほとんど考えられないと認定した。

 しかし、遺留品については報道され、色や形状も際だった特徴はない。知る機会があったのは犯人以外に考えられないということはできず、あてずっぽうでたまたま言い当てたとしてもそれほど不自然ではない。

 警察官の取り調べメモによれば、被告の供述は、遺留品の特徴にそぐわなかったりしたが、長期間の取り調べの中で具体的な供述に変容している。

 捜査官の顔色を読みながら供述したとみることが可能で、捜査官も、問答を繰り返す中で特徴に合致する供述を求め続け、被告に影響を与えた可能性は否定できない。

 被告の供述状況に疑問があるのに、被告が犯人であることを認定する有力な根拠の一つとした一審判決の認定は論理則、経験則に照らして不合理と言わざるを得ない。

 【結論】

 状況証拠で認められる間接事実に、被告が犯人でないとしたら説明できない事実関係が含まれているとは言えず、犯人とするには合理的な疑いを差し挟む余地がある。

 【破棄自判】

 本件公訴事実について、被告が犯人であることを認定するに足る証拠はないから、無罪の言い渡しをする。

(山陽新聞 20121213)
更新日時: 2012年12月14日




最高裁の決定骨子

 最高裁の決定骨子は以下の通り。

※ 目撃者の運転手は面割りの前に写真を見せてもらい、記憶が変容した可能性がある。証言は取り調べを重ねるにつれて男性の特徴と矛盾する部分が消え、最終的に男性とほぼ一致する内容に変遷し、信用性を損なう

※ 直前に男性が被害者と一緒にいたからといって犯人と推測することは困難

※ ポーチや下着の色などの特徴に関する男性の供述が捜査機関の示唆や誘導による可能性がある

※ 男性は取調官の反応を見ながら供述した結果、ポーチなどの特徴にたどりついたと見る余地もある。特徴を言い当てたからといって犯人性を推認するのは困難
更新日時: 2014年7月11日




別件の公判関係

第一審 大阪地裁(長瀬敬昭裁判長) 裁判員裁判

殺人未遂、強制わいせつ致傷、建造物侵入罪
日付 摘要
2016 2/24 初公判 (冒頭陳述、罪状認否) 67歳被告側は無罪を主張
2/29 論告求刑公判 (論告求刑、最終弁論) 検察側は「女性の人格を無視した身勝手な犯行だ」として懲役25年を求刑
3/4 判決公判 (判決) 大阪地裁(長瀬敬昭裁判長)は「凶悪で残忍な犯行だ」として懲役16年を言い渡し
リンク:産経新聞
期限の2016年3月18日までに検察弁護側共に控訴せず、懲役16年の刑が確定
更新日時:
2016年3月22日




被告の判決状況

氏名 罪名 第一審 控訴審 上告審
求刑 判決 裁判所・日付 判決 裁判所・日付 判決 裁判所・日付
K.N. 殺人などの罪 求刑死刑 無期懲役 京都地裁
2011/05/18
一審破棄 無罪 大阪高裁
2012/12/12
上告棄却 最高裁第1小法廷
2014/7/8
強制わいせつ致傷
などの罪
求刑懲役25年 懲役16年 大阪地裁
2016/03/04
非控訴
更新日時:
2016年3月22日




67歳受刑者死亡

 2016年3月4日、大阪地裁が懲役16年の実刑を言い渡し。弁護側、検察側の双方が18日の期限までに控訴せず判決が確定。その後大阪刑務所に服役。同年4月頃から体調を崩し、医療刑務所に移送した。

 同年7月11日朝、67歳受刑者は大阪医療刑務所(堺市堺区)で死亡した。
更新日時: 2016年7月11日



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